アフターコロナのデリカ&製造小売戦略

中食惣菜業界が再度伸長する傾向となってきた。食品強化するスーパー各社は、特に中食・惣菜(デリカ)事業に注力を注いでいる。その背景は、お客様の変化(少子高齢化、単身世帯増、女性の社会進出等)による需要が増していることがベースにあるが、利益率が高いこと、他社との差別化を図れて来店動機になること、付加価値を訴求しやすいこと等が主たる理由である。大手小売業3社の中食・惣菜事業戦略及び製造小売への取り組み強化策に注目した。

イオンリテールデリカ戦略

イオングループの22年度営業収益が過去最高の9兆円台となり、営業利益も増益。イオンリテールを中心とするGMS事業は、営業利益140億円に黒字転換を果たした。
イオンリテールの業績を牽引する「デリカ事業」に関する取り組みについて、イオンリテール食品本部デリカ商品部デリカセンター開発担当部長の栄田悌氏にインタビュー。昨年秋に開店して好調な「イオンスタイル天王町」にて好調カテゴリー、商品及び今年度の方針等について話を伺った。

〇2022年デリカ業績について

デリカ全体105%(約1500億円)とリテール食品全体よりも伸長を果たすことが出来た。原料高騰影響、水光熱費や賃金上昇影響もあり、トータル利益率はややダウンしたが、粗利額でカバーした。外食が厳しいのを受け皿に伸長することが出来た。
構成比が高い「ホットデリカ」は105%伸長。商品ブラッシュアップを推進。特に「唐王」ブランドの取り組みを強化した。チルド肉をPCセンターから供給することで味を改良し、品位を安定させる共に、作業軽減を図った。4月に発表された、から揚げグランプリで金賞受賞。
「弁当」部門は、調理麺、サンドイッチも含めラインを増やしたが、110%強伸長を図る事が出来た。特に弁当部門に区分している「おはぎ」は、小豆(むらさきさやか)、塩など原料を北海道産に拘り、売り場も確立することでヒット商品になった。
「ピッツァ」は、売り場もしっかり確保し、再加熱して食べる美味しい商品へと差別化を推進した。原料高騰分のコストアップ分の値上げをしたが115%強の伸長を達成。
「惣菜、サラダ」は、副菜から主菜へ強化を図っているが、101%程度の伸びであった。健康志向対応の商品開発も更に強化していくことが課題である。
「寿司」は全アイテムの仕様変更し、価値を上げて、コストアップを吸収し、103%伸長を果たすことが出来た。

取り組みを強化した「唐王」ブランドは、4月に発表された「からあげグランプリ」で金賞受賞

「ピッツァ」は再加熱して食べる美味しい商品へと差別化を推進

〇2023年度のデリカ戦略方針

カミサリー戦略が最重点課題である。グループ企業のイオンフードサプライ(AFS)と連携し進めていく。関東でも来年に向けて、新センターを準備中である。また、現場・商品レベルを安定化させるため、インストア加工業務比率を削減していく方針。
例えば、原料を探す時間の削減等も推進し、生産性改善を図ることも進めていく。昨年も登録商品SKU数を20%程度削減したが引き続き削減を推進していくと共に原料高騰を吸収し、価値ある商品を提案していく方針。外食・レストランからの取り込みを図り、特に洋風・中華・エスニックなどのアウトパック商品を強化推進する。

○今回取材「イオンスタイル天王町」は、2022年10月18日オープン

デリカの新たな取り組みが反映により、好調に推移している。横浜市保土ヶ谷区にある天王町店は旧サティをイオンに変更した店であるが、地域最大級の食品フロアを構成し、売上構成の65%を食品が構成。居住エリア3km圏内に35万人が住み、人口増加エリアで、1km圏内に小学校が10校もあり、20~50歳代が多い立地。即食であるデリカ売場を充実強化すると共に、冷凍食品の提案型売場も強化。この冷凍食品売場は昨年8月にイオンスタイル新浦安MONA内で新たなフォーマットで開発した売場を反映。ベーカリー(カンテポーレ)、焼き鳥(日本一)、リワード・キッチンという専門コーナーに続き、PIZZAコーナーを展開。さらに店内手作り「鉄板焼き」を訴求し、「だし巻き玉子」を展開。「おはぎ」も壁面売場で大きく陳列訴求し、デジタルサイネージによる情報で訴求している。

売り場スペースをしっかり確保した「ピッツァ」コーナー、サイズもバラエティ豊富に展開

「おはぎ」は小豆、塩などの原料を北海道産に拘り、売り場も確立することでヒット商品に。
売場では壁面で大きく陳列訴求し、デジタルサイネージによる情報で訴求

お弁当商品は原料・包材等の値上げの影響もあり、498円が中心

かつ処「たて花」のカツコーナー、自慢のトンカツやメンチカツを展開

店内手作り「鉄板焼き」を訴求

「だし巻き玉子」も展開

煮物商品のラインアップも充実

おかずやごはんをカスタマイズできる「リワード・キッチン」

冷ケースのアウトパック惣菜は、洋風・中華の品揃えを強化。
サラダ類は、従来の練りサラダから付加価値を付けたサラダを強化

【天王町店デリカ商品詳細】

■弁当・丼類

■麺類

■惣菜類

■サラダ類

■ピッツァ・おはぎ・だし巻き玉子

■揚げ物

サニー、西友のデリカ強化策

2023年に西友及び九州で60店舗以上を運営するサニーが創業60周年を迎えた。西友は、2025年に食品スーパーで業界ナンバーワンを目指し、今年度は生鮮食品分野の改革を大きく進めていく方針である。特に生鮮食品の商品力強化の第一歩として「食の幸」ブランドを4月より販売開始した。それらの取り組みを反映した新店舗「サニー博多住吉店」がオープン。

〇西友「サニー博多住吉店」(4月27日オープン)の商圏

JR博多駅より徒歩10分の位置で単身世帯や二人世帯が多く人口増加も見込まれる。その特性を踏まえ、簡便性・利便性を重視した売場作りを行い、惣菜等の商品も充実し、24時間営業にてニーズに答えていく。この店舗オープンでサニーは63店舗になる。

〇九州の食材を使用した惣菜売場

畜産コーナーでも品揃えしている、九州限定の食材「福岡県産はかたもち豚」「九州産華味鳥」等を使用し、店内厨房で仕上げた揚げ物や弁当を品揃え。九州の郷土料理で、鶏肉、しいたけ、ささがきごぼうを使用した「かしわおにぎり」や和惣菜、サラダ、巻き寿司などは、自社工場「西友福岡広川工場」より供給している。
水産コーナーは、鹿児島の醤油の老舗「吉村醸造」、干物の老舗「酒元水産」と共同開発し、九州の甘めの醤油に付け込んだオリジナル干物の品揃えも。「食の幸」ブランドとして、「生アトランティックサーモン」を品揃え。青果コーナーでは、糸島近郊の生産者の品揃えを強化し、「食の幸」ブランドの「肥後浪漫すいか」等を品揃え。

畜産コーナー等で品揃えしている九州限定の食材を使用し、店内厨房で仕上げた揚げ物や弁当を品揃え

九州の郷土料理で、鶏肉、しいたけ、ささがきごぼうを使用した「かしわおにぎり」

「九州産華味鳥」等を使用したから揚げ

「福岡県産はかたもち豚」等を使用したチンジャオロース弁当

セブン&アイ PEACE・DELI流山キッチン

セブン&アイの石橋常務より「2030年の目指す姿は、食を中心とするリテールグループである。シナジー3.0では、共通基盤、インフラの活用を行い、グループの成長を進め、関東圏の出店を進めていく。」と冒頭に説明。 
ピースデリ和瀬田社長より、流山キッチンの概要の説明があった。「精肉・鮮魚の加工やミールキットの供給を行い、半年程度を掛けてフル稼働に向けて進めていく。来年2月稼働予定の千葉キッチンでは、精肉・鮮魚と共に弁当・惣菜の製造供給も行う予定である。設備としては、販売期限延長の為のガス置換包装機、冷凍刺身を作るプロント凍結機、定貫スライサーなどを導入した。自社内製化を進め、新たな取り組みを進めていく」

設備としては、販売期限延長の為のガス置換包装機、冷凍刺身を作るプロント凍結機、定貫スライサーなどを導入

【流山キッチンにおける取組】
◇最新設備導入による品位向上・販売期限延長(食品ロス対策)

食品の保存に適した気体を封入し販売期限を延長。

食品の品質を維持したまま冷凍する新しい冷凍設備を導入高品位の冷凍刺身を製造予定。

◇持続可能な水産業を応援する取り組み

国際機関に認められた水産認証であるMEL認証の商品を取り扱い強化。CoC認証取得に向け申請中。

◇省資源の取り組み

ノントレー包装プラスチック使用量の削減。

物流センター併設による高効率な配送を実現、配送車両減によりCO2削減につなげる。

製造小売への取り組み強化が加速

食品スーパーで好業績の企業の共通点は製造小売に取り組んでいる事があげられる。
その代表する企業が、ヨークベニマル、ヤオコーである。両社は早くから自社製造子会社である、「ライフフーズ(ヨークベニマル子会社)」、「三味(ヤオコー子会社)」を設立して取り組んできた。近年、両社とも製造子会社を合併して、次のステージに移行している。スーパー各社とも食品強化を図る中で、製造小売を志向する動きが一層加速するものと思われるので、その方面での投資が増加していくものと予想される。
ちなみに、ヤオコーはSPA推進部を2023年4月に設立し、製造小売業への踏み込みも開始し、原料からの商品開発を推進している。2023年3月期のヤオコー決算では、34期連続の増収増益であったが、売上高で15%の構成比であるデリカ事業が利益では46%の構成比となっており、デリカ戦略が収益面での柱である事が明白。
その他企業でも、デリカ製造、精肉・鮮魚プロセスセンターを設立する企業は増加傾向であるが、これはインストア加工での人材が不足している事も背景となっている。

今回の取材企業では、西友は早い時期から自社子会社「若菜」の工場を各地に設立して取り組んできたが、その強みを生かした商品の品揃えが充実している点が注目された。
またイオンリテールは、イオンフードサプライ(AFS)でのカミサリー戦略を推進すると共に、全国各地において戦略的パートナーシップを結ぶメーカーとデリカ専用工場等を推進するなどして、着実にアウトパック商品の強化を図ってきた。さらに、イオングループ企業では、マックスバリュ西日本が自社工場を香川、岡山に設立して、カミサリー戦略の取り組みを強化してきた。グループのカスミはローズコーポレーション、フジはフジクオリティ等でこれまでも着実に製造小売に取り組み、地域でのシェアを獲得してきた。さらにマルエツも新たな拠点の準備を開始している模様であり、イオングループの積極的な取り組み施策は今後も目を離すことが出来ない。
セブン&アイとしては、グループのヨークベニマルがライフフーズにより展開をしてきたが、漸く首都圏地区のイトーヨーカドー、ヨークマート向けの精肉、鮮魚Pとデリカ製造拠点という子会社PEACE・DELIを設立して投資をすることになった。早期にフル稼働となり、グループの競争力強化に繋がるかどうかが注目される。